4、市河米庵と江戸の唐様
4-4、北島雪山と細井広沢
独立性易から文徴明をはじめとする中国書法を直接学んだ北島雪山(1637-1697)は、日本の唐様の祖と言われ注目されます。
これは王維や杜甫などの詩を集めて揮毫された巻子本です。
細身の鋭い線質で、手足の長い字形から宋時代の黄庭堅あたりの書風も取り入れたことがわかります。
中国書法に立脚した確かな筆法で、品のある作品です。
さらに、雪山の門弟である細井広沢(1658-1735)がこの流れを受け継ぎました。
広沢の著者『紫薇字様』の冒頭には雪山の肖像を掲げて讃を入れ、師弟関係を示しています。
また、渡来僧である雪機が雪山に贈り、その後広沢の手に渡った「君子存之」の印影を摹刻して載せています。
広沢はこの印を火災で失った後も覆刻して愛蔵していました。
互いに慕い合う師弟関係がうかがえます。
広沢の作品を紹介しましょう。
漢の長仲統『楽志論』を書写した巻子本です。
※2
生田氏の兄弟に書き与えられたもので、広沢68歳の作であることが巻末の識語からわかります。
北島雪山の風をもとにしながらも、王羲之の書法を継承したと自身で主張するに相応しい、独自の風を見出しています。
日本の唐様は雪山によって確立されました。
その書を受け継いだ広沢は著書を数多く遺しており、『観鵞百譚』には王羲之、趙孟頫、文徴明の書法こそが唐様の主流であると語っています。広沢は唐様の普及に貢献した人物でもあります。
この二人によって唐様全盛の時代がはじまります。(田村彩華)
【掲載作品】どちらも成田山書道美術館蔵
※1「詩書巻」北島雪山 紙本墨書 巻子(一巻) 27.8×1034.0㎝ 中村龍石氏寄贈
※2「楽志論」細井広沢 1725年 紙本墨書 巻子(一巻) 27.7×457.6㎝