5、田近憲三拓本コレクション
5-2、 様々な興味で見ることができるコレクション
突然ですが、今年はある年から1800年です。今から1800年前、いったい何があったのでしょう。
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西暦220年、後漢が滅びました。魏王曹丕は後漢の献帝から帝位を禅譲され、魏帝となります。この時家臣が曹丕に即位を勧めた奏上文は公卿将軍上尊号奏と呼ばれ、受命を明らかにした受禅表とともに石碑に刻され現存しています。これらの銘文は、当時政権の中枢にあり、能書で知られた鍾繇が揮毫したといわれています。漢代に盛行した懐が大きく素朴な風の隷書とは異なる、直線的な筆画で強い印象の隷書の登場は新しい時代の到来を感じさせます。
文帝曹丕は生まれながらの跡継ぎではありませんでした。多才な兄弟との相続争いの結果、血族を遠ざける治世を歩みます。この奏上文でも名を連ねる臣下で上位10名のうち曹氏は2人のみ、祖父曹嵩の血縁である夏侯氏は一人も入っていません。また、同年施行した九品官人法は、能力重視、中央集権の確立を狙った制度で、後の日本の冠位十二階の制の根本にもなった歴史的制度です。新たなる秩序、貴族制社会の原点となる社会変化がこの出来事を境に展開していきます。蘭亭の会の雅も、竹林の七賢の鬱屈もここが原点なのですね。(山﨑亮)
【掲載拓本】
※1、公卿将軍上尊号奏 伝鍾繇 1帙1帖 黄初元(220)年 成田山書道美術館蔵
※2、受禅表 伝鍾繇 1帖 黄初元(220)年 成田山書道美術館蔵