6、安東聖空と大字仮名運動の人びと
6-2、日比野五鳳
大字かな運動は、単にかなを大字で書くという運動ではありませんでした。漢字書において明清調が好まれたり、前衛書が気勢を上げるのと同じように、かな書が壁面芸術としてどう変容するべきかを模索した試みでした。
戦後のかな書を牽引した日比野五鳳もまたこの時代を先導した一人でした。六曲半双屏風に仕立てた「いろは歌」(東京国立博物館蔵)は、五鳳の代表作としてよく知られるところです。
ただ、五鳳の仕事は小作品の「ひよこ」(東京国立博物館蔵)や、中字で二曲半双屏風に仕立てた「モモ栗」(日比野五鳳記念美術館蔵)など、一括りでまとめられるものではありません。文字や画面のサイズはあくまで結果でしかなく、どう表現するかに腐心した書業だったのでしょう。
やや硬質の強い書き出しで始まるこの作ですが、行頭を下げ、空間を作ることで明るい印象を感じます。書き進めるに従い、かな特有のたおやかな線質が混ざり合い存在感のある一作になっています。
日比野光鳳先生の箱書きもいただいております。
五鳳らの取り組みは、現代のかな書に大きな道筋を切り開くものでした。かなを平安時代を頂点とする王朝文化としてだけで捉えるのではなく、その根源となる漢字との関係の再構築に脚光を浴びせたのです。(山﨑亮)
【掲載作品】
伊藤佐千夫歌「春めきし」 1幅 彩箋墨書 32.0×49.8㎝ 成田山書道美術館蔵