12、古写経手鑑『穂高』

12-5、特寸の断簡「金峰山埋経」

 

 

藤原道長(966-1027)が、寛弘4(1007)年に奈良県吉野にある金峰山に埋納した写経の一部です。当時、悪疫の流行や内裏焼亡など立て続けに起きる凶事に、道長自ら筆を執ったのです。江戸時代に発掘されました。長いあいだ土中にあったため下半分が焼け崩れてしまっています。

巻物の状態で納められていたため、金字の経文が裏写りし付着しています。本来であれば裏打ちをしたり貼ってしまったりするので紙背は確認できません。しかし、今回は裏打を施さず、紙の質感を残して収める方法を工夫していただき裏側が見えます。

 

 

 


(裏面)

はっきりと文字を読み取ることができますね。
現存する埋経としては早い時期のもので、その後各地で経筒に入れた写経を奉納する経塚が営まれるようになりました。「金峰山埋経」は道長自筆の遺墨としても貴重で、その書きぶりから能書であったことがわかります。(田村彩華)

 

【掲載作品】 成田山書道美術館蔵 松﨑コレクション(古写経手鑑『穂高』)
藤原道長筆 金峰山埋経 紺紙金字法華経安楽行品第十四 平安時代 紺紙金字 14.5×37.8㎝