13、松﨑コレクションの古写経

13-4、装飾法華経巻第二

 

 

金泥で界を引き、天地に大小異なる金銀の切箔や砂子、野毛などで華やかに装飾された紙に『法華経』巻第二が首尾一貫して書写されたもの。紙背にも一面に銀の切箔が撒かれ、長い年月が経ち、それが紙面に抜けて模様のようにも見えます。もとは今よりも光り輝いていたのでしょう。

 


裏面

 

現在、この一巻と一具になるものは確認できませんが、八巻本の『法華経』、または開結を伴って十巻一具とされたものと考えられます。

 

 

平安後期から鎌倉初期ころは、貴族社会の中で王朝貴族の耽美趣味と末法思想、法華信仰とが相まって『法華経』を中心とした装飾経が多く書写された時代でした。
最澄が比叡山に天台宗を開宗して以来、『法華経』は根本経典と定められ、さまざまな講会が地域や階級をこえて盛んに行われました。多くの人が『法華経』の利益を信じ、流行することとなりました。これを結縁した宮廷貴族の趣向を反映して、本紙や文字、軸や紐、題簽などの装丁にも装飾意匠の善美を尽くした装飾経が誕生していったのです。

 

 

 

この一巻もこうした背景に生まれたものとみられ、その装飾技巧が「平家納経」や「久能寺経」などと近い趣であることから、その成立は平安末期ころのものと考えられます。「久能寺経」「平家納経」「慈光寺経」のように経巻ごとに異なる装飾を施した、一巻経なのかもしれません。

 

文字は、肉厚で天平経を思わせる堂々とした書きぶりです。ところどころに本文とは異なる手で朱点や読み、異同が記され、表紙や見返しはのちに補われたものとみられます。
紙や装丁まで意匠を凝らし、文字も素晴らしく、装飾経の首尾一貫したものとして貴重です。(田村彩華)

 


巻末

 

 

【掲載作品】成田山書道美術館蔵 松﨑コレクション
装飾法華経巻第二 1巻 平安時代 彩箋墨書 28.0×1244.5㎝