19、古谷蒼韻とそのコレクション
19-3、古谷蒼韻「良寛詩歌」「良寛詩六首」
こちらの屏風は、越南ゆずりの墨跡調で、良寛の漢詩を一首、万葉仮名で和歌を一首揮毫した大作です。
連綿は最小限に抑え、一文字ずつを丁寧に書き進めているように見受けられます。字形や墨色の変化、運筆の緩急などに富み、筆を自在に走らせ、次第に動きに勢いが増していきます。
墨跡への傾倒は、墨跡好きであった越南の影響が強くあったといいます。なかでも寂厳の代表作「飲中八仙歌」の草書の屏風を学書の資としたようです。
もう1点ご紹介します。
こちらは、ひとつの作品のなかに楷書、行書、草書、仮名とあらゆる要素が盛り込まれた4段構成の作。
このような横形式の作品を好むのは、寂厳の「飲中八仙歌」の影響か、行間のつくり方で作品に動きを出すことができ自身の求める表現に合致していたからでしょうか。
書き始めの楷書は、扁平な字形に肥痩のある線から鍾繇の「薦季直表」を思わせます。王羲之の書を掘り下げていくと、王羲之自身が影響を受けた鍾繇の書にたどり着き学んだようです。楷、行、草、仮名と展開する流れは自然で、その意識に落差はありません。仮名は王羲之の草書からできたものであり、仮名も漢字も、漢字の各書体によっても技法を使い分けることはないという考えなのです。表現領域の広い古谷先生ならではの作品といえるのではないでしょうか。
古谷作品を通してみると、木簡や墨跡風の個性的な表現、明清調、万葉仮名や仮名を用いた和様風の作品など、多字数から小字数の大字作品まで様々な表情を見せています。その時々の時代に対応し書の多様性を示しつつ、どのように変化しても揺るがない芯となる根本には王羲之の書があったのでしょう。(田村彩華)
【掲載作品】成田山書道美術館蔵
※1 古谷蒼韻「良寛詩歌」156.0×365.0㎝ 六曲半双 紙本墨書 平成20年 第43回現創会展 古谷蒼韻寄贈
※2 古谷蒼韻「良寛詩六首」各24.0×225.0㎝ 一面 紙本墨書 平成15年 日本書芸院展 古谷蒼韻寄贈