21、赤羽雲庭

21-2 赤羽雲庭 作家の眼と学芸員の眼

 

二王を範として、完成度の高い行草で観る者を驚嘆させていた雲庭は、『凛厳』や『暮山巍峨』といった代表的作品の発表を経て、次第に書法を超越した滋味溢れる作品を多く手掛けるようになりました。雲庭の生きた線を追い求めるアプローチはとても複雑で、一点、二点の作品で雲庭像をまとめるのは難しいと感じています。

 

※1

 

こちらは昭和25年の日展に出品された作品です。『書品』12号によれば、玉版貢箋を張った屏風に「月精」という青墨を用いて淡墨で書かれた一枚書きで、まさに酔中の仙人を思い起こさせるような自由な筆遣いが印象的な作品です。30代の壮年の精気が感じられる一点です。

続いて、

 

 

※2

 

昭和43年の日展の出品作です。これより前、『凛厳』『暮山巍峨』といった代表作を立て続けに発表した雲庭はその後、肝臓疾患で病に倒れました。後に命を失うことにつながった闘病生活の中で、気力を振り絞って発表したこの作は、強く筆をこすりつけたような渇筆が随所に現れた孤高の世界が表出されています。

さらに、

 

※3

 

亡くなる前年、昭和49年の日展出品作です。伸び伸びとした気宇の大きい書き振りで、荘子の言葉を書き上げています。一種の爽快感すら感じます。

壮年時から技術の高さで将来を嘱望された雲庭は、技術ばかりが前面に出ることを危惧し、様々な思索を巡らせました。当館の収蔵コレクションはその葛藤の一面を表しているようです。学芸員はこうした軌跡をたどることで作家の世界に迫りたいと考えています。しかし、現役の先生方にお話をお伺いすると、「作家は様々な試行錯誤を経て今に至ったので、新しい作品に注目して欲しい。」という考え方が多いようです。コレクションを前にして、果たして赤羽先生だったらどう自己分析をされるだろうか。興味が尽きないところです。(山﨑亮)

 

【掲載収蔵作品】

※1、赤羽雲庭 杜甫飲中八仙歌 6曲半双屏風 紙本墨書 144.8cm×368.5cm  昭和25年日展出品作 赤羽ルリ子氏寄贈

※2、赤羽雲庭 元張昱詩 1面 綸子墨書 153.8cm×63.5cm  昭和43年日展出品作 植木靖子氏寄贈

※3、赤羽雲庭 畫地而趨 1面 紙本墨書 152.0cm×43.5cm 昭和49年日展出品作 立見閑氏寄贈