24、松﨑コレクションの古筆

24-4、「法輪寺切」

 

 

青鳥居主人松﨑中正先生は、この「法輪寺切」を「コレクション随一才色兼備楊貴妃」と評しています。

「法輪寺切」は『和漢朗詠集』を書写した断簡で、こちらは漢詩部分の5行。藤原行成筆と伝称されていますが、それよりも時代の降った11世紀頃の書写と考えられています。
淡藍色の紙に藍、紫の羅紋の飛雲を大きく施したこの装飾は「法輪寺切」のほかには見られない珍しいものです。

 

さらに、雲母砂子を一面に撒いています。しかし、よくみると4行目の4文字「猶引摂甚」の部分には雲母が確認できません。文字を間違え、その部分だけを削って改めて書き直したのでしょうか。

 

「法輪寺切」と同筆とされる古筆には、伝紀貫之筆「高野切」第三種、伝藤原行成筆「蓬莱切」、伝藤原行成筆「粘葉本和漢朗詠集」、伝藤原行成筆「伊予切」などがあり、どれも端正な字形のものです。そのうち『和漢朗詠集』を書いたものが「法輪寺切」、「粘葉本」、「伊予切」と3件あります。小ぶりでやや扁平な字形の「粘葉本」、それに比べ文字の崩しや表現に自由さが見られる「伊予切」、それらと比較すると「法輪寺切」は、高さ30センチほどの紙に堂々と書写され、落ち着いた表情を見せています。冒頭に紹介した中正先生の評価には納得できます。

 

この一幅を購入した松﨑春川は、箱書きを蒔絵にしています。

 

 

「法輪寺切」は筆跡が優れているだけでなく、珍しい羅紋が施された料紙にも特徴があり、類例のない注目の古筆切です。(田村彩華)

 

【掲載作品】成田山書道美術館蔵 松﨑コレクション
伝藤原行成筆 法輪寺切 和漢朗詠集 一幅 平安時代 彩箋墨書 27.9×10.7㎝