24、松﨑コレクションの古筆

24-5、まくりの断簡「衣手」

松﨑コレクションの古筆のうちまくりのものは27 件。それらを新調した桐箱に収めています。

  

桐箱に合わせた中性紙を用意し、一葉ごとに本紙の大きさに応じて窓をあけ、その枠は取り外しができるようにしています。本紙に負担の無いよう配慮し、そのままの状態で収納、展示できるようにしました。

 

さて、まくりのもの一括して「衣手」と名付けたのは、春川が出合ったこの「栂尾切」の冒頭に「衣手乃…」とあることに由来しています。

 

古筆№20「栂尾切」

もともとまくりの断簡は「衣手」と名付けた箱(現在とは別の箱)に収めて大切に保管されていました。将来は手鑑にとの想いもあったようで、この「栂尾切」は記念すべき第一号。特に愛着のあるものだったのでしょう。

 

白、黄、縹、淡紫、草、朽葉などの色とりどりの染紙を交用し、さらに金銀泥で蝶、鳥、流水、草花などを描いた下絵が特徴で、この断簡にも流水、草花が見受けられます。

 

筆者は、源兼行または宗尊親王と伝称されますが、今日では源兼行とする説が一般的です。ブログ24-1で紹介した「高野切」第二種や、「関戸本和漢朗詠集切」、「雲紙本和漢朗詠集」などと同筆のもの。紙背継ぎ目に施された花押により伏見天皇の遺愛の品であったことが知られ、桃山時代には加賀の前田家に。その後桂宮家に伝来したため「桂本万葉集」と呼ばれています。現在は宮内庁に保管され、巻四の断簡を「栂尾切」と呼び、これは貴重な一葉です。

 

 

「針切」

古筆№41「針切」

 

針のように細く鋭い筆致から「針切」と呼ばれ、小ぶりな文字を軽快なリズムで書き進めています。女手が爛熟期を迎え、個性的な表現が生まれてくる11世紀後半から12世紀ころのものでしょう。

こちらは、『墨美』40号、『伝藤原行成筆針切』(書芸文化新社)、『日本名跡叢刊』90、『古筆学大成』19、『日本名筆選25 針切 和泉式部続集切』などの多くの文献に掲載されている断簡で、臨書したことのある方も多いのではないでしょうか。
まくりの状態なので裏側も、虫喰いの箇所も鮮明にみえます。

 

 

藤原定家筆「歌合切」

古筆№49藤原定家筆「歌合切」

 

これは源通具と藤原俊成女夫妻の五十番からなる歌合の断簡で、もとは冊子本だったのでしょう。
右下に加えられた部分の周囲には損傷の跡があり、別のところにあったもの移してはめ込んだ可能性があります。

 

定家特有の奇癖が強く打ち出される以前(40歳ころ)の若い時期の筆跡で、リズミカルにそして自由に筆を運んでいます。
ツレは15葉確認でき、東京国立博物館の一幅がよく知られています。

 

藤原定家筆「歌合切」東京国立博物館蔵

 

『かなの鑑賞基礎知識』表紙より転載

 

このほかにも「衣手」には、伝藤原俊成筆「顕広切」、伝藤原為家筆「北野切」、伝藤原定頼筆「烏丸切」、伝藤原定頼筆「下絵拾遺抄切」、伝藤原行成筆「伊予切」、伝世尊寺行能筆「和漢朗詠集切」、伝藤原忠家筆「柏木切」、伝藤原俊忠筆「二条切」、藤原定家筆「大記録切」(明月記切)などがあります。(田村彩華)

 

【掲載作品】成田山書道美術館 松﨑コレクション
古筆№20 伝源順筆 栂尾切 一葉 平安時代 彩箋墨書 20.6×12.3㎝
古筆№41 伝藤原行成筆 針切 一葉 平安時代 彩箋墨書 22.4×15.3㎝
古筆№49 藤原定家筆 歌合切 一葉 鎌倉時代 紙本墨書 23.3×28.5㎝
※番号は『青鳥居清賞 松﨑コレクションの古筆と古写経』図録と対応しています。